レーモン・クノーの『文体練習』より その10 虹の七色

人々が家路に着き、若者の街・渋谷が紫色のカーテンに包まれる頃、私は藍色のコートにギュッと身を包んで寒さをしのぎ、青色のイヤホンをして音楽を聞きながら、緑色した電車に乗り込んだ。混雑具合は中程度といったところで、私は迷惑がかからないように反対側の扉まで詰めていった。背後には若いカップルが並んでいて、私の頭上の壁面広告を眺めている。黄色い発泡酒の広告には目もくれず、「バルタン星人だ」、「宇宙忍者だって」と隣の金融屋の広告について話している。その後、橙色のマフラーをした男は、連れ合いの女性に頭をコツンコツンと2回当て、親密そうに身体を寄せ合った。新宿駅で電車を降りてホームの向かいの列に並び、中央線を待っていると、前方の女が一生懸命スマートフォンをいじる様子が目についた。何かのゲームのようで、戦いで体力を消耗したのか画面が赤色に点滅している。激戦の行く末に気を取られるあまり、私は誤って中野止まりの各駅電車に乗り込んでしまった。