「おそれ」 2022/03/23 習作

アーティストの杉田廣貴さん、大森和枝さんと3人で、毎週一つのテーマで絵やことばの習作をアップしていきます。

初回は「おそれ」

杉田さんと大森さんのスケッチを含む3人分の習作画像は、以下「Quark Gluon」のブログにアップしています。

本ブログには、自分が書いたテキストのみアーカイブします。

「おそれ」

爪も牙も持たぬかよわき一群が
石を打ちつけおこしたそれは
みたことない色と熱を発し
かれらをたいそう怯えさせた

それは同時に
かれらを長いこと脅かしてきた
あまたの外敵をも恐れさせる力だった

そのときぼくらは学んだのだ

    

おそろしいものを知ることは
自分を守ることでもあると

あの日手にした小さな火
かれらはそれに
身を守る以上の力を見出した

敵対者は村落ごと焼き尽くす
異端者は火刑に処し書物は焼却炉へ
巨大な動力炉は神話を添えて辺境に

いつしかぼくらは誤解した

自分たちを守るためには
おそろしいものは総て
消し去るか屈服させねばならないと
そしてなにがなんでも自分が
そちら側に回ってはならないと

燃やした分だけ大きくなる 
逃げればどこまでもついてくる
火は影であり影は火だ
それはぼくらのうつしみだ

立ち止まって向かい合う
手を握って確かめる
どこまでも大きくなったそれは
ぼくがよく知るすがたかたちをしていた

おそろしいものを知ることは
自分をいつくしむことだ

             Yuhei Suzuki 2022.03.23