思い出は名曲と共に「伝承」され、「私たち」の物語が紡がれる - 「ロマンシング サガ オーケストラ祭 2022 東京公演」夜の部レポート

「ロマンシング サガ オーケストラ祭 2022 東京公演」夜の部(2022年8月21日18:30〜@東京芸術劇場)に参加してきました。

この感動を誰かと分かち合いたく(ソロ参加だったので)、ムスメを保育園に送ったあとコメダ珈琲に籠もって観劇レポートを勢いのままに書き上げた月曜の午前(もう昼だ…)。

上記公式ページから6月に開催された大阪公演のアーカイブ配信チケットも販売されていますので、これをきっかけにアーカイブやCD、今後のオーケストラやサガ関連のイベントetc.に少しでも興味を持ってくださる人が増えてくれればと願って書きました。曲目含め「ネタバレ」にはなりますが、ご了承くださいませ……。

プログラムは以下の通り
■前半
「オーバーチュア ~ オープニングタイトル メドレー」
「迷いの森 ~ 下水道 メドレー」

「帝都アバロン ~ 皇帝出陣 メドレー」
「氷湖 ~ オーロラ メドレー」
「アビスゲート ~ 四魔貴族バトル1 ~ 四魔貴族バトル2 メドレー」

「ポドールイ」 歌:KOCHOさん
「ロマンシング・サガ1,2,3 ラストバトルメドレー(決戦!サルーイン ~ ラストバトル ~ ラストバトル)」

■後半

「巨人の里 ~ 邪聖の旋律 メドレー」

「最終試練 ~ 死への招待状 メドレー」 歌:岸川恭子さん
「熱情の律動」 歌:岸川恭子さん

「メヌエット」 歌:山崎まさよしさん

「聖王廟 ~ 魔王殿 メドレー」
「女道化師イゴマール ~ オリアクス-世界を穿ち、時を射る者- メドレー 歌:KOCHOさん」

■アンコール

「エンドタイトル(ロマンシング・サガ3)」
「エピローグ(ロマンシング・サガ2)」 ピアノ:伊藤賢治さん

指揮 松沼俊彦
演奏 パシフィック フィルハーモニア東京
作曲・ゲスト 伊藤賢治

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(以下、感想)

開演前の影アナが、ペンギンズ・ノブオさんというサプライズ。諸注意事項に加え、恒例の「ジュエルクレヨォ!!」もありました。昼公演では「ロビー」を「ロビン」と言ってボケたけど、滑った&大人に怒られたから夜はやめたそうです(笑)

18:30に開演、
「オーバーチュア ~ オープニングタイトル メドレー」
「迷いの森 ~ 下水道 メドレー」
と2曲続けてのオープニング。

開演直後の緊張もあって「オーバーチュア」はほとんど息を止めて聴いていましたが、「オープニングタイトル」に移り変わるタイミングで感極まって涙してしまいました……。

シリース1,2,3共通のメロディーで、ロマサガと言えばやっぱりこのオープニングですよね。Saga(英雄譚、冒険譚、叙事詩)の名の通り、壮大な物語の始まりを感じさせる名曲です。

続いての「迷いの森 ~ 下水道 メドレー」も素晴らしかったです。「下水道」は「世界一かっこいい下水道」「飲める下水道」などとファンから愛されている、ロマサガ1のダンジョン曲です。終わった後に登場したMCの結さん(ノブオさんと同じくサガシリーズのイベント司会でおなじみ。お二人とも生粋のゲーマーでサガファン)が、緊張なのか興奮なのか、最初ちょっと噛み噛みで、その後登場した作曲家の伊藤賢治さん(イトケンさん)に突っ込まれたところ「下水道飲み干しちゃって」と弁明していたのが可愛かったです(笑)


続いて3曲、
「帝都アバロン ~ 皇帝出陣 メドレー」
「氷湖 ~ オーロラ メドレー」
「アビスゲート ~ 四魔貴族バトル1 ~ 四魔貴族バトル2 メドレー」
開演直後にもう「四魔貴族バトル」ぶっこんでくるのか!と興奮しました。結さん・イトケンさんMC「最初からクライマックス」の言葉通り。

しかしここはやはり「帝都アバロン ~ 皇帝出陣 メドレー」を語りたい(ここから早口のオタクトーク文体が加速します)。

ヴァレンヌ帝国の皇帝を主人公として操作し、「伝承法」と呼ばれる秘法で、歴代皇帝の記憶と技術を受け継ぎながら(つまりプレイヤーキャラがどんどん代替わりする)戦っていくのがロマサガ2のゲームシステムで、「帝都アバロン」はその拠点となるアバロンの宮廷や城下町で流れる曲です。最初のプレイヤーキャラであるレオン皇帝が、部下と息子のジェラールを率いて帝都近くの洞窟へ遠征しているところから物語が始まり、「ダンジョン」から「街」に戻ってはじめて聞くのがこの曲で、「なるほどこのゲームの主人公は王様なのか」と世界観の理解を促しながらプレイヤーを出迎えてくれます。

ところがそのレオン皇帝は、宿敵・七英雄の一人クジンシーの「ソウルスティール」(相手の生命力を全て吸収してしまう)によってゲーム開始まもなく命を落としてしまいます。実はレオンは直前に占い師オアイーブから「伝承法」を教わり、命をかけてソウルスティールを「見切り」、その技術を息子・ジェラールに引き継ぐのです。

悲嘆に暮れる暇もなく帝位を継承したジェラールに最初に訪れる試練が、ゴブリンの群れによるアバロン襲来です。ゴブリン撃退のために打って出ようとする若き新帝ジェラールを心配した文官は「ジェラール様とご一緒しろ!」と、腕利きの傭兵(フリーファイター)・ヘクターに声をかけるのですが、ヘクターは「オレ達がやとわれていたのはレオン様がいたからさ。ジェラール様なんかについてく理由はないね」と冷たい返答(これは先帝レオンを尊敬し慕っていたゆえの拒否反応でしょう)。ジェラールは、「わかった。ヘクターの言うことももっともだ。」と、まだ自分が彼からの信任を得られていないことを受け入れ他の仲間と出陣します。

そんなジェラールを見て、精一杯の鼓舞をとの思いでしょう。先導する衛兵のセリフが素晴らしい。

「ジェラール様の…… 
皇帝陛下のご出陣!ご出陣!」

ここで初めて流れるのが、先の「帝都アバロン」とメドレーで組まれている「皇帝出陣」なんですよ!!!!
命と遺志を受け継いで戦っていく本ゲームのドラマを象徴する一曲で、以後も皇帝が道半ばで倒れて継承する度に耳にすることになるのですが、やはりこのシーンが至高です。

ちなみに「ロマサガ2」は、僕がはじめてプレイしたサガシリーズで、当時はまだ小学生だったので、ゲームは父親が買ってきてプレイしているのを横からみて、面白そうと思って少しずつ自分でもプレイし始めた時期でした(そこから今に至るまでサガシリーズを追いかけるようになったので、文字通り父から「継承」したことになる)。当時幼かった少年は、「お父さんがいきなり死んじゃう」という展開に驚きと不安を感じながらもコントローラー握っていました。…そんな思い出補正も相まって本公演二度目の涙を流したのがこの「皇帝出陣」でした(語りが長い)。


結さん・イトケンさんのMCを挟んで次の2曲、
「ポドールイ」
「ロマンシング・サガ1,2,3 ラストバトルメドレー(決戦!サルーイン ~ ラストバトル ~ ラストバトル)」
で前半終了です(四魔貴族バトルが激しすぎて、指揮者・松沼さんのLP−ロマサガにおける生命力を表すパラメータ−を心配する結さんのコメントが笑えました)。

ロマサガ3のタウン曲の一つ「ポドールイ」は、ゲスト・アーティストKOCHOさんの歌唱とオーケストラの共演で、本当に素晴らしかったです。ググってみたのですが歌詞情報がうまく見つけられず、確証がないのですが、Я(わたし)とかты(あなた) っぽい単語が耳に残ったのでおそらくあの歌詞はロシア語かな…という気がします(全く身につかなかったけど大学時代の第二外国語でロシア語だったので)。もしそうなら、雪に包まれたポドールイの雰囲気にピッタリだなと思いながら聴いていました。

これまたオタクの思い出語りを挟むのですが、主人公8人から1人を選択できるロマサガ3で、僕は初プレイ時にユリアンを選択しました。シノンという小さな開拓村で育ったユリアン含む幼馴染の若者たちのもとに、「ロアーヌ侯国」の侯爵ミカエルの妹・モニカが助けを求めにやってくるところから物語は始まります。国内でのクーデターの計画を偶然知ったモニカを護衛しながら、兄・ミカエルに情報を伝え、彼が侯国を取り戻す戦いに赴く間、モニカを匿う場所として向かうのが北国ポドールイです。

当時少年だったプレイヤーの体験としては、田舎町のシノンから出て凶暴化したモンスターと戦いながら街道を突破し(マップの終わりで精霊系シンボルがすごいスピードで追いかけてきたのめっちゃ怖かった…)、はじめてたどり着く「町」で、まだ右も左もわからず不安な中、ひとまず宿に泊まったり買い物したりできる「安全」な空間で聴く音楽として、とても印象深いです(その後吸血鬼レオニードのいる城に行くわけですから、なおさら)。

「ロマンシング・サガ1,2,3 ラストバトルメドレー(決戦!サルーイン ~ ラストバトル ~ ラストバトル)」は、「ポドールイ」の静謐な印象と対極に、パーティーを鍛えた末のラストバトルを盛り上げるアドレナリン全開の3曲です。2のラストバトルは、七英雄形態追加の「ズキャンズギャン」が、3のラストバトルは、「トータルエクリプス」から「闇の翼/獣魔の翼」発動の「チュイーン」が脳内再生余裕でした。たぶん僕以外のみんなも、自分がプレイしたときの試合運びを思い出しながら聴いていたはずです。文字通り手に汗握り、気づかぬうちに息も止めて聴いてしまっていたようで、前半終わっての休憩時間で謎の疲労感がありました(笑)


(休憩時間は完全に不審者オタクムーブしてしまった)


20分の休憩を挟んでの後半、
「巨人の里 ~ 邪聖の旋律 メドレー」
からスタート。今冬のリマスター版発売が発表された「ロマンシング・サガ -ミンストレルソング- 」(2005年にPS2で発売されたロマサガ1の完全リメイク作品)からの楽曲です。

演奏後のMCには、「サガ」シリーズ総合ディレクターの河津秋敏さん、「サガ」シリーズプロデューサーの市川雅統さんもご参加。

もの悲しくも荘厳な「巨人の里」は、忘れられた種族である巨人族がひっそりと住む集落で流れる一曲です。イトケンさんから曲のサンプルを受け取ったミンサガのスタッフさんが感動のあまり泣きながら河津さんに報告したというエピソードが印象的でした。曰く、「イトケンはバトル曲だけじゃないぞ」と。血湧き肉躍るバトル曲の数々がファンとしても印象に残りがちなイトケンさん楽曲ですが、「ポドールイ」や「巨人の里」といったしっとり系の楽曲もこれまた素晴らしいですよね。

「邪聖の旋律」は、ステージ上層に設置された東京芸術劇場の巨大パイプオルガンによる生演奏が圧巻でした。いやー、すごい(語彙が足りない)。調べてみたら世界最大級のオルガンとのことです。

実は僕はミンサガ未プレイで(たぶん部活とか大学受験で余裕なかったんだと思う。そのあと上京してしばらく「サガ」シリーズと離れてしまった)、YouTubeやニコ動などのプレイ動画で二次的に摂取したことしかないのですが、「ゴーストシップ」戦の曲という印象が強いですね。早く自分の手でリマスター版をプレイしたい…


MCを挟み、二人目のゲスト・アーティスト、岸川恭子さんをお招きしての2曲
「最終試練 ~ 死への招待状 メドレー」
「熱情の律動」
この2曲だけ、オーケストラっていうか岸川さんライブステージみたいな雰囲気で、これまた最高でした。

岸川さんの歌唱を生で聴くのはこれが初めてだったのですが、いやぁもう…(語彙)圧巻です。

ノブオさんの冠番組「ノブオのサガ魂!」の大阪公演レポート回で、お笑い芸人のノブオさんがリアクションに困る勢いでボケ倒す岸川さんの楽屋トークを先に見ており、この日の演奏前MCでも岸川さんは同じノリでユーモラスにお話されていたのですが、それを見たあとの演奏の迫力がもう、トークとのギャップも相まってすごいインパクトでした。

一曲目「最終試練」歌い始め直前の「スーッ」って息吸う瞬間、ブルっと鳥肌立ちましたよ。歌声は言わずもがなですが、表情、手や足、とにかく文字通り「全身」で歌われる方だ……。
「熱情の律動」では岸川さんの呼びかけに応じて会場の私たちも手拍子で参加。金管&打楽器のソロリレーも素晴らしく、極上のエンターテイメントでした。
終わったあと、指揮者の松沼さんと岸川さんが飛び跳ねながらブンブンって満面の笑みで交わす握手が最高に眩しかったです。


続いて3人目のゲスト・アーティスト、山崎まさよしさんをお招きしてのミンサガのオープニング曲、
「メヌエット」
です。

山崎まさよしさんは高校生の頃に出会って大ファンになったアーティストで、当時お小遣い貯めてシングルやアルバムを一生懸命買っていました。上述の通り、僕は発売当時ミンサガをプレイしそこねているのですが、「メヌエット」のCDは発売後すぐに買っていて「うわー、これがサガ新作の主題歌なのか!」って感動していた記憶があります。

山崎まさよしさんの「メヌエット」制作秘話もMCで明かされて印象深かったです(大量の設定資料が送られてきたとか、収録に河津さんが来たとか)。山崎さんご自身はゲームをそんなにやられないと語られてましたが、ミンサガの世界観をあの一曲で創られて、もう「神の一柱」とお呼びしたい。

ミンサガのオープニングでは、物語上の重要人物である吟遊詩人がギターを弾きながら歩いていくシーンに「メヌエット」が流れるのですが、この詩人の動きはモーションキャプチャーで実際の「メヌエット」のコードを押さえているという事実が、イトケンさんのMCで明かされました。


あっという間に終演が近づき、
「聖王廟 ~ 魔王殿 メドレー」
「女道化師イゴマール ~ オリアクス-世界を穿ち、時を射る者- メドレー」
の2曲を残すのみに。

イゴマールメドレーは、シリーズ最新作でのスマートフォン・アプリ「ロマンシング・サガ リ・ユニバース」第一部ポルカ編クライマックスを彩る楽曲で(いわばラスボス戦)今回のオケコン開催に当たってユーザーから募集した楽曲リクエストから選ばれたとのこと。

「リ・ユニバース」は「ロマンシング・サガ3」と同じ世界を舞台とし、3の300年後という時間軸で展開されるゲームです。時代や世界を超えて歴代シリーズの戦士たちが「召喚」されて同時代・同世界にアクセスしてくる舞台仕掛けで(ユーザーの俺たちはジュエルを集めてはガチャを引く。ジュエルクレヨォ!!)、ロマサガ3のゲーム内では伝説上の人物として伝聞や史跡(聖王廟や魔王殿)でしか触れることができない、聖王と魔王も、「リ・ユニバース」ではストーリーに登場します(しかも聖王はプレイアブルキャラに)。聖王・魔王とも因縁を持ち、独自の思惑でトリックスターとして暗躍するイゴマールのテーマ曲メドレーの前に、この「聖王廟」と「魔王殿」をメドレーで持ってくるのも心憎い演出だなと思いました。


そして、アンコール
「エンドタイトル(ロマンシング・サガ3)」
「エピローグ(ロマンシング・サガ2)」
公演を締めくくるにはこれ以上ない選曲でしょう。当然、泣きましたよ(3回目)。

まず、アンコール一曲目にロマサガ3のエンディングを持ってきたのがずるい。ラストバトル(前半最後)と、魔王殿(後半最後のイゴマールメドレーのひとつ前)と、共通のメロディーがアレンジで入ってるんですよね、このエンディング曲。ラスボスの「破壊するもの」が強いのなんので、やっとクリアした後にこの曲を聞けるわけですから、情緒揺さぶりすぎかよ。

今回は「ロマンシング・サガ」シリーズ(リユニ含む)・イトケンさん曲縛りというのもあって、公演全体の曲順を振り返っても、素晴らしいストーリーだったなと思います。ラストバトルメドレーをクライマックスに畳み掛けた前半に続いて、やはり今冬のリマスター発売に向けて盛り上げる意図であろう、ミンサガ中心の後半と、ロマサガの世界にどっぷり浸かる2時間でした。


濃密だったからこその没入感で、文字通り「あっという間」に終演を迎えたわけですが、最後のMCで、そんな観客の気持ちを共有して「寂しいですね」と言うMCの結さんに、「また次への楽しみが出来たということで」返されるイトケンさんのコメントが、アンコール最後の曲がロマサガ2のエピローグなのも相まってグッと来ました。七英雄との最終決戦を終えたあと、最後のプレイヤーキャラである「最終皇帝」が退位して、バレンヌ帝国は共和国になります。そこから先のことはゲーム内で描かれませんが、「私たち」の物語は明日も続くのです。


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Information(冒険は続く…!)

『ロマンシング サガ オーケストラ祭 2022』公式ページ


「ロマンシング サガ オーケストラ祭 2022 大阪公演」収録配信

販売期間
2022年7月27日(水)19:00~2022年8月28日(日)21:00
アーカイブ視聴期間
2022年8月21日(日)21:00~2022年8月28日(日)23:59
※アーカイブ視聴期間中は何度でも視聴可能です。
チケット価格4,000円(税込)


「ロマンシング佐賀2022」公式ページ