「笑うことについて」というお題で、自分ごととして書ける話がまったく思い浮かばない。
先月、友人たちとやってみた「眠ることについて」のリレーエッセイ。面白かったのでテーマを変えて毎月やろうということになり、みんなから色々とお題の案を出してもらって、じゃあこれにしようかと、「笑うことについて」を選んだのは僕なので自業自得ではあるのだが。はて困った、どうしよう。
トップバッターのさとみさんが昨日公開してくれた「仮面の間に」を読んだ。
自分の「真顔」や「笑顔」がどんなものなのか客観視したり、相手にとって「よい聞き手」であろうと笑顔を「整え」たりという意識が、それはそれで俺の社会性どうなのよという気もするが、僕には全然無かったので、へええなるほどと思ったのだ。
で、読んでますます「何を書こう」と困ってしまった。僕の担当は火曜日。つまり今日。記事の公開時刻は毎日21時(で揃えようと決めたのも僕である)。この行を打っているのは18時58分、なう。家の近所のモスバーガーにいます。モスチキンうまいよね。
笑わないわけではない。
不機嫌なわけでもない。
人といるときはそれなりにへらへら笑っている、と思う。
無理やりがんばって笑ったりはしない。だから、笑いにまつわる悩みや痛みは特にない。
ところが、というか、それゆえに、というか、「笑うこと」をテーマに書け、とりわけ「エッセイ」という、個人的な経験に基づく文章で書けと言われると困ってしまう程度に、「笑い」と自分が接続されていない感じがする。
「笑う」というのは、いったいなんだろう。
困ってしまったのでとりあえず理屈で整理してみよう。
人間はどんなときに笑うのか(エッセイだっつってるのに主語がでかい)。
漫才やコメディを見て笑うとか、友人たちとアホらしいエピソードを共有して大笑いするとか、面白い、楽しい、愉快なことがあったときに人は笑う。当たり前すぎる話だが、これがひとつ。「陽」の感情をストレートに表出するような笑いだ。
他にも、親子や恋人同士が好意や愛情を伝えるために笑い合ったり、怯える動物や子供に「怖くないよ」と安心させるために微笑みかけたり、会議や講演といった場で聞き手が話し手に「聞いていますよ」と関心を示すシグナルとして笑顔を向けたり(時にうなづきやジェスチャーも交えながら)、自分より強い相手に媚びを売るために「へへへ、旦那ぁ」とニヤついたり……そういった諸々の対人関係・社会関係を円滑に運ぶための道具としての笑いもある。
僕はたぶんまだ経験したことがないが、「人はあまりに怖いときには笑うしかなくなる」とも聞く。ホラーやサスペンス映画で見るやつだ。そこまでではなくても、自分のダメな部分やどうにもならない状況について話すときに、自虐、自嘲気味に笑うということはしばしばあるだろう。つまり、ひとつめの笑いの真逆、好ましくない状況への抵抗、反転としての笑いだ。
……などと書き出してみたものの、どうしよう、ここから全然面白いエピソードに展開できないぞ。困った(と書いたのは何回目だろう)。
最初に書いたように、別に笑わないわけではないんだよな。苦し紛れに分類してみたどの「笑い」も、一応まあ人間として一通り経験・実践しているとは思う。
ただやはり、喜怒哀楽が弱いというか、感情の起伏が少ない方ではあるだろう。
僕の脳内ではいつも忙しくたくさんの言葉が動き回っている。色んなことを考えて、それを話したり書いたりもする。つまり僕の脳だか心だかになんらかの反応、動き、流れ、は生じているはずなのだけれど、それがあまり「笑う」と紐付かないのだ(「怒る」「泣く」もほとんどない)。
思考(言葉)と感情の距離が遠いのだろうか。
いや違うな、思考(言葉)が過剰すぎて感情が覆われているというべきか。
そんな僕が、「笑うことに”ついて”」書こうとするのは、ますます思考を駆使して「笑う」から遠ざかる行為ではないか。なんという皮肉!がびーん!
(エクスクラメーションマークを使ってはみたが、当然今も真顔である)
「楽しいから笑うのではなく、笑うから楽しくなる」
というどこかで聞いたようなフレーズを引くと、なんだか安直な気もするが、しかしまあ、実際そうである。
(たぶん、少し調べれば笑うことの効能を科学的に分析した研究とかもたくさん出てくるだろう)
笑っているときは、楽しいし、心地よい。それだけの話だ。特に書くことがないとしても、なんだかんだ僕もそれなりに笑っているわけで、それ以上でもそれ以下でもないのである。ここまでテキストをこねくり回して、ようやくシンプルなことを言えました、私。
これを書きながら思い出したのだけど、こんな僕も営業の仕事をしていたことがあって、そのときの同僚はほんとうによく笑う人だった。
ナチュラルに、楽しそうに、そしてまあ本当によく通る声で(会議室の外に漏れるぐらいに)、あっはっはと笑う人だった。
つられて自分も毎日笑っていて、あのチームでの仕事は本当に楽しかったな(彼女より音量と口角はだいぶ低かったけれど)。
いま一緒に暮らしている妻と娘も、実によく笑う。ゲラゲラ笑う。
あとなんか、よく即席で歌ったり踊ったりしてる。
(これも2人と比べると2,3割程度だろうけれど)家族といるときの僕は、よく笑っていると思う。つまり、楽しいってことだ。
「笑えばいいと思うよ」(出典:新世紀エヴァンゲリオン)
よく笑う人たちと一緒に過ごせることは、きっと幸せなことだと思う。