私の趣味は夫と仲良くすることです、というくらい、夫のことが好きだ。
もっと暗い言い方をすれば、夫がもし私より先に死んでしまったなら、私はそれに耐えることができるだろうか、と寝る前にいつも思う。
とある方に、私と夫がどうやって出会って、関係を紡いで、そして今に至るのかというのを文章で読みたいと言っていただき、そしてこれを書いている。ひとりの興味を持たれた読者に向けての文章だし、夫に向けての文章だし、夫や私の家族に向けての文章だし、全然関係ない人にとっても、ちょっとでも面白い読み物になればいいなと思う。
夫と出会ったキッカケは、マッチングアプリだった。私は社会人になってからマッチングアプリで出会いを見つけ、結婚したいと思い、そして振ったり振られたりしてきた者なので、マッチングアプリの達人を友人間で皮肉にも自称していた。「ゴールインできてないから達人ではない」というのが友人の見解で、それはもっともであるとは思う(今はゴールインできたから達人でよかろう)。
その頃の私は、結婚する気がない男性とお付き合いをしていて、結婚して身を固めたいという思いからその方にお別れを告げ、早速またマッチングアプリで出会いを探した。
色々な人とご飯に行く中で出会ったのが、夫だった。
夫はエンジニアで、私もWebデザインについて少し勉強していたことがあったり、エンジニアの元彼(なぜかその人と夫はTwitter上で私を仲介に繋がるようになり面白いのだが)がいたこともあって、プログラミング言語や、エンジニアの仕事の特性をまあまあ知っている方だった。そのことで話に花が咲き、じゃあ、会いましょうかということになった。
夫は夫でマッチングアプリをやることも少なくなかったそうだが、いつも茶をしばいて終わることが多かったそうだ。私も同じだった。そして私は、またいつもの茶しばきで終わるのかなあ、とぼんやり考えていた。
だが、初めて会いましょうとなったとき、私は愕然としてしまった。駅前から横断歩道を渡ってこっちに向かってくる男性は、何となくデニム生地っぽいトップスにボトムスもデニムを合わせていた。ここら辺から何となく不穏な雰囲気があった。最初は駅前のカフェでお話しましょうということだったのだが、私がお金を出すのかごちそうしてもらうのかでもたつき、尚且つ財布がマジックテープをビリビリとはがすタイプのものだった。私は一呼吸置いて、「この人はファッションに興味があまりなさそうだ」ということと、「女性をエスコートするのにあまり慣れていないんだな」ととりあえず納得した。
そしてカフェでの会話も結構ありきたりなものだったと記憶している。なんとなく時間だけが過ぎていき、でもカフェだけで終わりにしたくないなという気持ちになったので、私がカフェの窓から見える看板を指さして、あそこのバー行ったことあるんです、あそこで晩ご飯食べませんか?と誘った。夫は軽く承諾してくれた。
そこはオーセンティックバーだったのだが、そこまで力んで行くような場所ではなく、私はお酒がほぼ飲めないので、季節の果物でドリンクを作ってくれるそのバーに彼を誘った。バーに行くと、私に酒は入っていないものの、彼は飲むのでお互い何となくテンションも上がり、話もようやく盛り上がってきた。夫は酒に弱いのだが、程よく酔っぱらっており、しかし理性的な人間だった。バーの薄明りの下で、カウンターの奥、横の席で彼をじっと見つめると、横顔が綺麗なシルエットを作っていた。その瞬間、私は「彼と付き合ってみたい」と思った。会った瞬間とは時差があるけれど、そこでひとめぼれ、してしまったのだ。そこから先はご想像にお任せするが、私たちはそんなこんなで付き合い始めるようになった。
付き合い始めるようになって、私の自宅と彼の会社が徒歩圏内にあることがわかり、じゃあ一緒に住んじゃおうかぁ、ということで彼が私の家に居候するようになった。そして、婚活を謳ったアプリで知り合ったので、付き合ったらすぐに婚約してよくない?と当時の私は謎のロジックを彼に説き、そして彼もそれに賛同してくれた(なぜなんだ、もう少し落ち着かなきゃ、と今になって思う)。友人に婚約破棄されてものすごくショックを受けていた人がいて、「さとみよ、婚約したなら既成事実を作れ、ちゃんと婚約指輪をもらえ」と謎のアドバイスをもらい、私としてもふむと考え、婚約指輪はいらないから、婚約時計が欲しいな、と言ったら、Tiffanyの腕時計をプレゼントしてくれた。彼もそれで、心が決まったらしかった。ここまで付き合って1ヶ月半ほどの出来事である。友人たちにも婚約をした話をしたら、大丈夫か、だまされてるんじゃないのか、あなたは寂しいから一緒に居てくれる人を求めているんじゃないのか、本当にその人でいいのか、と色々尋ねられ、心配された。
しかし私は、同棲している間にどんどん夫のいいところを見つけた。夫のいいところはたくさんあって書ききれないが、物事をポジティブに捉えようとするところ、ちゃんと話し合いができるところ、相手(私)のいいところを見つけようとしてくれるところ、愛情深いところ、勉強家なところ、そして何より一緒に過ごしていて楽なところが一番だった。私があまり栄養価のあるものを食べていないとき、二人で自炊できるようにしようとオイシックスを頼むようになったが、私が寝たきりのようなときや疲れているときは夫が料理をいつも作ってくれた。今でも言われるのだが、「さとみんがダラダラしてると安心するよ」と夫は言う。「さとみんが笑っているのを見るとおれも安心するよ」と言ってくれる。
私も夫には努めていいフィードバック(所謂いいところを褒めるようにすること)を出会った当初から積み重ねてきた。たーちゃん(夫)は優しくてとっても幸せな気持ちになるよ、好きだよ、愛してるよと言葉をかけると、夫の頬も緩み同じように私のいいところを述べた後、好きだよ愛してるよ、と言ってくれる。
見た目の面でも変化があった。冒頭で、夫はデニムオンデニムでビリビリ財布を使っていたと書いたが、変えた方がかっこよくなるよ、とアドバイスをして、私も私で35歳くらいの男性が持つ財布で機能的で夫が気に入り、おしゃれなものはないか、アパレル系の友人やおしゃれに敏感な男性の友人にリサーチし、アブラサスというブランドの財布がその条件にマッチすることを夫に教えた。すぐ購入した夫はものすごくその財布を気に入ってくれ、私も嬉しかった。付き合いだしたのが春の始まりだったので、春~夏の洋服もZOZOで私が全て見繕ってまとめ買いをした。アパレル店員の友人から「とりあえず男性には黒か紺のチノパンをはかせておけ、あとは何とかなる」というお言葉を頂戴したので、黒と紺のチノパンをカートに入れ、私がこれどう?と言いながら半ば強引に洋服を全とっかえした。そして髪の毛。いつも千円カットで切っていると聞いて、まあ別にいいんだけど、美容院に行ってみるというのも悪くないよと言い、美容院に二人で通うようになった。まあこのような様々なビフォーアフター劇があったのだが、その結果としてか、彼は会社に居る大学生のインターンの子から「若返りましたね」と言われるようになったらしい。それを報告してくれた時とても嬉しそうだったし、私もとても嬉しかった。
また、こんなエピソードもある。毎日毎日、お仕事お疲れさま、とか、いつもありがとうね、たーちゃんはこういうところがいいところだね、という声掛けをしてニコニコしていたら、夫の表情がどんどん柔らかく、優しい笑顔になるようになった。怒りっぽくてむすっとしていることが多かったと夫からは聞いていたので、そこも大きな変化だろうと思う。Nさん(夫の名字)、なんか(いい風に)変わりましたね、と同僚にも言われるようになったのが付き合って半年もしてからくらいだろうか。それまでは終始怒りっぽかったそうだが、柔和になっているのだろうなあ、と何となく想像して、幸せな気持ちになった。そして、私が病気持ちで色々な問題を抱えているとき、いつも夫は「おれはいつだってさとみんのそばにいるよ、味方でいるよ」というメッセージを絶やさなかった。
最初は強引で勢いに任せて付き合った節があるけれど、私たち二人は日々を重ねる中で、お互いのいいところを「高めあい」ではなく「認め合い」、欠点を補いあえる最高なパートナーシップを結ぶことが今のところできている。私が苦手なことを夫はさらりとやってのけるし、夫が苦手なことを私もさらりとやってのける。そんなことがよくある。
これから先どんなことが待ち受けているのかわからない。そして夫がたまにイライラすることがある面も結婚してから出てきたけれど、まだ新婚だからわからないことだらけだけれど、この人と共に人生を編んでいくことを私はとても楽しみにしている。私より絶対長生きしてね、大好きなたーちゃん。