僕は恥ずかしい
何かを食べている姿が恥ずかしい
軽薄そうに笑った顔が恥ずかしい
流暢に出て来る言葉が恥ずかしい
何か美しいものに出会った時に、簡単に心を奪われてしまうことが恥ずかしい
そのことをすぐ夢中になって話してしまうことが恥ずかしい
誰かの苦しみを見た時に、何かしないではいられない気持ちになって、
何かをした気になってしまう自分が恥ずかしい
僕は恥ずかしい
自分の成し遂げたことを認めてもらいたい自分が恥ずかしい
自分の苦しみを何よりも大切にしてしまう自分が恥ずかしい
自分の喜びに共鳴して貰えると嬉しくなる自分が恥ずかしい
僕は恥ずかしい
恥ずかしいと思っていることが恥ずかしい
他の誰にもそんなことは思わないのに
僕は恥ずかしい
自分にとって本当に大切なものを大切に出来ずに、
代わりに大切にするものを探し続けている自分が恥ずかしい
僕は恥ずかしい
大して意味のないことをさも意味があるかのように話す自分が恥ずかしい
必死になって紡いだ言葉を後になって恥ずかしく思っている自分が恥ずかしい
僕は恥ずかしい
自分の軽さが恥ずかしい
自分の重さが恥ずかしい
僕は恥ずかしい
自分の過去が恥ずかしい
刻一刻と過去になっていく今が恥ずかしい
僕は恥ずかしい
言葉によって、誰かに何かをなすことが出来ると信じている自分が恥ずかしい
言葉をちゃんと扱えるまで、沈黙を続けることが出来ない自分が恥ずかしい
僕は恥ずかしい
こんなことで、何かを言ったつもりになっている自分が恥ずかしい
もう十年以上も前、当時住んでいた街で、年明けの朝に一人、ぶらぶらと散歩をしていたことがあった。街は閑散としていて、ほとんど人の影は見当たらなかった。空は薄く曇って、どこにも眩い光は無かった。風が吹いていて、それなりに寒かった。耐え難いほどの寒さではなかった。何もかもが薄かった。音もあんまりしなかった。
僕はただぼんやりと街をうろついて、大きな川にたどり着いて、倉庫か何かの無機質な壁にもたれかかって、煙草を吸って、しばらくして、座って、また煙草を吸った。足元には小さな草が生えていて、僕はただそれを見ていた。
たまにその草のことを思い出す。