夫と私のよもやま話vol.1

朝起きて、夫も目が覚めていると「おはち」と言う。「おはち」というのは二人の共通語で「おはよう」という意味だ。「おはち」「おはち」と何往復かラリーをして、朝からベッドの上でにっこりと笑う。完全にバカップルのような何か。でも、朝からにこにこしている人が隣に居るのは幸福以外の何者でもない。

朝、夫の目が覚める頃私は起きるのだが、朝の薬を飲んだらひどい眠気が襲ってくるので、朝食を食べて、すぐベッドに横になる。気がついたら、昼前になっている。ここで眠気が収束すればいいのだが、まだ眠い時は昼ご飯を食べてまた眠ることになる。眠気に支配される人生であるなぁと思う。以前はこんなに眠くなることは異常なんじゃないか、私の怠惰からなのではないかと思っていたけれど、友人の中で日中眠ってしまう人は少なからずいて、私だけの問題ではないのなら、そこまで危険視しなくてもいいのではないかなと思う。もちろん主治医には相談しているが。

なんだか最近はスターバックスコーヒーでメロン味のフラペチーノが話題らしいということを噂で聞きかじっていた。そこで、昼過ぎにUber Eatsでその商品があるかどうかスマホをスワイプしながら確認すると、なんと、あった。夫にそのことを伝えると、「贅沢はたまにだよ」と言われつつ、注文するのを許可してもらえた。すぐに宅配されてきたメロン味のフラペチーノを飲むと、果肉が入っていたり、しっかりとしたメロンの味がしていたりで、とても美味しい。夫は私が外出をほぼできないというハンデを持っていることを十分に理解してくれて、たまにこうやって贅沢をさせてくれる(Uber Eatsで頼むと少し高いのだ)。そういえば元気を出してほしい友人がいるなあと思ったのでLINEギフトでスタバのチケットを贈るととても喜んでくれた。私はプレゼントをするのがすごく好きなのでこちらも嬉しい気持ちになる。

ふとした瞬間に、生理がきていることに気づく。私はたいていルナルナで測ると予定日ぴったりに生理がくる。予定日を的確に逆算するルナルナがすごいのか私の体内時計の正確さがすごいのかはわからないが、あまり早めにきたり遅れることはない。結婚してからなんとなく子どもがどうとかそういったことも考えるし夫とも話し合うが、私は今目の前のメロン味のフラペチーノの甘さの方が大切だ。先のことはわからない。でも私の身体は今私だけのものではないことを思う。私は持病から薬を大量に飲んでいて、妊娠禁忌のものもそこに含まれるから、今すぐに妊娠することはないようにしているのだが、そしてそれ以外にも「私達夫婦なりの夫婦の在り方」を二人で手探りで模索しているのだが(それは子どもを持たないという選択肢も含む)、それを近親者とはいえとやかく言われたくはない。私たちの選択だ、と思う。勿論、まだ誰からもとやかく言われたことはないのだけれど。私達夫婦は、まだお付き合いをしていたときからずっとこのことを丁寧に議論してきたのだ。生理がきたというだけで、ざっとこういうことを考えてしまう。そして少し暗澹たる気持ちになる。

ふと部屋の奥の寝室にある夫の作業机を見ると、夫もワイヤレスイヤホンをつけて多分音楽を聴きながら仕事をしている。仕事をしながらメロン味のフラペチーノを「ずずず」と最後まで飲んでいる途中のようだった。これおいしいよね、これたのしいよね、これおもしろいよね、これすきだよ、そういう言葉たちで私と彼を覆ってしまいたいと思う。一日に数回以上は「大好きだよ」と言い合う私達だけれど、私にとって彼は一番近い圧倒的他者である。彼の人生は彼から聴いたわずかな部分しか知らないし(それでも相当色々聴いてきたけれど)、彼が今何を考えているかなんてほとんどわからない。でもとりあえず、目の前に美味しいメロン味のフラペチーノがあったら、二人でその美味しさを共有する程度の「わかりあうこと」はできる。もちろん心の奥で彼が何を思って生きているのか、想像することはできるけれど、想像するよりも、今この瞬間の瑞々しい美味しさを、ただ共有したい。そう思う。