夫と私のよもやま話vol.4

閒で連載を持ちたいと言い、快諾してくださった悠平さんには申し訳ないものの、「夫と私のよもやま話」(そして、「私とあわい」)はかなり不定期更新の読み物になってしまった。久しぶりのみなさん、こんにちは。

新婚生活を婚姻してから1年と仮定すると、夫婦生活も新婚後半に差し掛かるようになってきて、二人で乗り越えなければならない問題やさまざまな話題もちらちらと出てきたが、今回は「新婚旅行」について記憶を記録に残しておこうと思う。

私のことを詳しく知る人の中には、私が診断の付かない病気、所謂「吐き気発作」と呼ばれる症状に悩まされていることをご存知の方もいるだろう。これは何かというと、外出したり緊張したりするときなどにえずいてしまうというもので、これが怖くて私は外出をほぼしない生活を送ってきたのである。

そんな私に、少しだけ変化があった。夫のお兄様から結婚祝いにいただいたカタログギフトの中に1泊2食付きのホテル宿泊券があり、新婚旅行に行ってみようか、という話になったのである。今までの私なら発作が心配で考えられなかったことであるが、新婚旅行には行きたかったので、三重県の鳥羽まで近鉄特急に揺られて行くことになった。

私は先々にスケジュールが組まれていると緊張するたちなので、その日がくる1ヶ月くらい前からずっと緊張していた。夫は「大丈夫だよ、おれがついてるから何があっても大丈夫だよ」と言ってくれたし、最悪何か悪いハプニングがあっても旅の想い出になるはず、と思い私も思い切って行く決断をした。

当日になるとワクワク半分緊張半分といったところで、まず京都駅までバスで出かける。京都駅から近鉄特急で鳥羽行きまでの切符を買うまでの道のりで、とりわけ駅弁屋さんの視覚的情報量の多さにくらくらしながら、そして京都駅の人の多さに発作が出そうになりながら、少し歩いては立ち止まり、お茶を飲んで深呼吸をして、発作が出ないようにそろりそろりと気をつけながら、近鉄特急のホームまで行く。

それから定刻になり、特急に乗ったところでようやく緊張が解け、車窓から見える田畑の景色に癒されながら、ゆるりゆるりと鳥羽まで向かう。鳥羽駅からホテルまではシャトルバスで向かい、オーシャンビューのツインルームに二人で落ち着く。その時点でもう夕方~夜だったので、少し休憩してからごはん処まで行く。伊勢エビをはじめとするさまざまな海の幸のフルコースを堪能し、夜を迎える。ここまで、発作らしい発作は出なかった。

翌日は朝から閒のMさんという友人に会う約束をしていたので、二人でホテルのラウンジ兼カフェのような場所で落ち合う。お互いに体調が中々すぐれないことが多い中、奇跡的にお互い体調がよかったので、少しの時間だったがなんでもない話で盛り上がる。とても楽しい。

Mさんと会う以外ノープランで来たのだが(とりあえず伊勢神宮とか行けばいいじゃん、みたいなノリだったのだ)、昨日鳥羽駅についたときにレンタカーの店が近くにあったことを覚えていたので、「たーちゃん(夫)、車乗れたっけ」「乗れるよ」「じゃあレンタカー借りてドライブしようよ」と提案すると、夫も快諾してくれる。

レンタカーを借りようと意気込んで某レンタカー屋に飛び込むと、「うちは今在庫の車を切らしていてですね……」と言われ、面食らう。計画的にレンタカーを予約して観光に向かうであろう人々を横目に、あれ?じゃあ今日どうしよっか……とそのレンタカー屋さんの前でおろおろと二人で悩んでいたら、見かねたレンタカー屋のおじさんが「向かい側のトヨタレンタカーだったら車あると思いますよ」と言う。これは助け船になり得るのか?!とドキドキしてトヨタレンタカーに向かうと、よかった、ここには余っている車があった。書類にサインをして、早速ヤリスという車種の車に乗る。

夫はペーパードライバーだということは聞いていたが、車に乗ってみると序盤はアクセルとブレーキを踏み間違えそうになるレベルでペーパードライバーであり、乗車時の緊張感がすさまじい。ナビはついていたのだが、「ここ左折だよねっ?」「そうそうここだよっ、いやまだその先だよっ、次の信号の先だよ」「前の車赤!赤!」などなど私もナビゲーション(?)をする必要があった。車で移動するのに、助手席でこんなに緊張したことがなかったので、目的地に着いたときにはもう既にへとへとになっていた。

目的地は夫婦岩で、海の中に二つの岩が寄り添うようにそそり立っているというもので、近くで見ると圧巻だった。二人で夫婦岩とお互いが映るように写真を撮り、二人とも満足。私が普段外出をしないので夫婦岩に行っただけでへとへとになってしまい、「これから伊勢神宮……行く?」「いや、もう無理でしょ」「じゃ鳥羽水族館行く?」「いや無理これ以上歩けない、ミキモトの真珠島とかは?(ほとんど歩かなくてよさそう……)」「そこにする~?じゃあそこにしようか」とほぼ私の意見が通る形になり、ミキモトの真珠島に行く。

真珠島について「とりあえず座りたい」という私の意見から、まずは食事処に行く。私はなんだか食欲がなかったのでソフトドリンクしか頼まなかったのだが、夫は真珠ランチフルコース(うろ覚え)のような何でもありのセットもののランチメニューとサイダーを頼む。

出てきたのは伊勢うどんを中心にするセットメニューで、伊勢うどんなるものを食べるのを楽しみにしていた私は思いがけずここで伊勢うどんと対面し、少しわけてもらう。やわらかく、タレに薬味が効いていて美味しい。ここでしばらく休憩して、館内展示も豪華絢爛なミキモトの真珠に関わるものが多くあったので、ゆっくり見て回りたかったのだが、私が倒れそうなほど疲労しているので、夫がとりあえず全部の展示品をせっせと機械的に写真におさめていくことになった。最後の方はもはや観光ではなく、写真を撮るタスクをこなす夫を見守る私、といった構図になっていた。

そんなこんなしていたらもうお土産を選んで帰宅するための電車に乗る時間になっていたので、レンタカーを返してお土産物を選ぶ。広いフロアがまるまる土産物のコーナーになっている場所(名前を失念)に二人で行き、両家の親、夫の甥っ子ちゃん、お世話になっている家の前のイタリアンレストランのマスター、そして自分たちにそれぞれお土産を選ぶ。

お会計を済ませて二人ともぐったりとした中で、近鉄特急の帰りの便に滑り込む。ほっとしながら、いい旅だったねぇ、楽しかったねぇと振り返る間もなく、夫はすぐに寝落ちしてしまった。その横顔を見ながら、ふと、あれ、発作が出なかったなぁ、ということに気がつく。色々な好条件が重なったことはあるだろうけれど、京都から三重県鳥羽までは片道電車で3時間近くかかる長旅である。この距離を移動できたこと、旅ができたことは自分にとってとても自信になった。そして、いつも引きこもって楽しみが出前を取ることぐらいだった自分が、夫と二人で外に出て想い出をつくることができたのは、純粋に「楽しい」と感じられることだった。夫も楽しかったようで、「年に1回くらい旅行をしてもいいかもね」なんて、以前なら口にしなかったようなことを互いに話すようになって、日常に彩りが出た。

総じて、勇気を出して行ってみてよかった、ありがとう三重県、ありがとう夫、という気持ちである。また今年も、どこかに行ってみたいな。