飲み物屋さんの、「よっこいしょ」 - 「書く」とき・ところ・道具とわたし #2

夜中の3時に原稿を書いていると、どこからか高揚感が湧いてくる。私が原稿を書くのは、いつもベッドの上だ。

彼氏ができて、いつの間にか彼と同棲するようになって、私の持っていたPCデスクは彼のリモートワーク作業机となった。行き場をなくした私は、彼と相談して、ベッドの上に置ける作業台と座椅子の背中の部分だけがあるものを使うことになった。ベッドの上に机を置くものだから、タイピングするたびに揺れるし、使いづらい。しかし私は、この環境でものを書くしかないものだから、どんどんとこの環境に順応していった。サイドテーブルも置き、そこに飲み物やZoomのときに塗る用の口紅を置き、ものを書く。

私は職業ライターなので、仕事としてもライティングをすることはあるが、閒の中の連載やリレーエッセイもこの机で書く。お手洗いに行かなければならないときは少し厄介で、よっこいしょ、と机をわきにやってから、自分の進路を確保する。執筆しながら結構な量のお茶やジュースを飲むので、「よっこいしょ」は結構面倒なものである。

原稿を書くのは冒頭にも書いたように深夜であることもあるし、目が覚めている日中であることもある。深夜にPCで作業するのは、眠気を逃してしまったときで、そんなときは空いた時間がもったいないから、とPCにいそいそと向かう。翌日の体調は最悪になることはわかっているのに、ギラギラと高揚した脳髄は私の筆をどんどん進ませる。

これに昔は、煙草がつきものだった。20歳からのヘビースモーカーだった私は、書き物をしつつ、一服し、書き物が仕上がればまた一服し、そうして時間を重ねてきた。煙草は紙のものから途中アイコスになったが、私の「一呼吸」のそばに常にあった。

サイドテーブルの上にお茶、清涼飲料水などを大量に置くので、彼氏からは「飲み物屋さんだね」と言われていた。ベッドの上の「飲み物屋さん」。悪くない。

私は今週引越しをする。いつの間にか彼氏は夫になり、共同生活を新しい家で始める。そのときこの環境のことを懐かしく思い返すこともあるかもしれない。揺れるデスク、飲み物屋さん、「よっこいしょ」。

今年に入ってすぐ禁煙を始めたので、たまに口元が寂しくもなる。いつものように、「よっこいしょ」とデスクをわきにやることもなくなるだろう。新居ではおそらくダイニングテーブルやソファで作業をするであろうからだ。飲み物屋さんもなくなるかもしれない。

それでも私は、新しい土地で、またこのPCを使ってものを書くだろう。それはこうしてものを書くことが、物理的にも精神的にも、私にとっての居場所づくりでもあるからだ。

新しい土地で、目新しいデスクで、書き物をするのはまた違った楽しさがあると信じている。でも、書き物が一息つくたびに一服し、清涼飲料水を流し込むのは、悪くなかったなあ。なんて。