鞄を新調する

鞄を新調した。今の鞄が古くなっていたのもあるが、主な理由は自分の作ったZINEを持ち歩きたいと思ったからだ。そのためには今使っている鞄では小さすぎる。よし、鞄を買いに行こう。そう思って私は、京都河原町の高島屋まで行った。

鞄コーナーに行くと、各ショップが様々な鞄を売り出していて、パッと目に着いたのはアニエスベーの鞄だった。私は黒い鞄を探していたのだが、黒の革で出来ていて、内側に深いブルーのラインが入っている。可愛い。値段を見ると8万円とあり何事もなかったかのように鞄を棚に戻す。

次に見たのはケイトスペードの鞄だ。私は個人的な趣味としてケイトスペードがあまり好きではない。ただ、値段がお手頃だし、機能的だった。「どうぞお鏡で合わせてみてくださいね」という店員さんの言われるがままに鏡に映った自分を見るが、何となくピンとこない。「ありがとうございました」と言って棚に戻す。

そのまま鞄コーナーをうろうろしていると、フルラのコーナーに辿り着く。ここで、私の記憶はまだOLとして働いていた頃にタイムスリップする。

当時手取り15万ほどだった私にとって、フルラは憧れのブランドだった。「フルラ」という言葉の響きがまず好きだ。意味は全く関係ないのだが、「フローラ」という祖母の経営していた洋装店のことを思い出させる。当時の私はお金を貯めて、フルラの財布と名刺入れと大きなトートバックを使っていた。トートバックは当時10万円以上したから、分割払いにして買っていた。毎月クレジットカードから分割分が引かれていくのを私は虚しく思わなかった。私が自分で働いて、稼いで、自分の好きな鞄を買ったんだ。私はそのことが誇らしかった。フルラで革をメンテナンスするキットまで買って、大切に大切に、それらの鞄や小物を使っていた。

今回見た鞄は黒地の革で出来ていて、スムースな部分とややざらざらした部分に分かれている。チャックを開けると鞄のサイドにベージュのバイカラーの部分も出てきて、可愛い。サイズ感もいい。おまけにセール品だ。欲しい。見た瞬間にそう思った。それと同時に、当時のように働いて、貯めて(あるいはクレジットカードの分割払いにして)買わなくてもいい今の自分を思い、勿論自分の貯金からこの鞄を買おうとしているのだが、簡単に手に入ってしまうことに一抹の虚しさも感じた。

店員のお姉さんと話していると、チャーム(キーホルダー)もつけるとよりかわいいですよ、と言われた。星形のチャームをつけてくれたのだが、私に星形はどうかなと思い、「花のやつはないですかね」と尋ねる。すると思っていたより大ぶりの花のチャームとワンポイントになる飾りを持ってきてくださった。つけてもつけなくても可愛いのだが、私が普段大体全身真っ黒な格好をしているので、ワンポイントあった方がいいかなと思い、これもお願いします、と話す。

購入してすぐにこのかばんで帰りたいんですけど、と話すと快く応じてもらえる。持ってきた荷物をそのまま新しい鞄に移し、手に提げると、思っていたよりずっと軽い。

この新しい鞄が私を新しい場所にきっと連れて行ってくれるだろうと思うと、胸が高鳴る。

決して安い買い物ではなかったが、その分働こうという気分になり、一件オファーがきていた求人に応募する。

私にとって百貨店は、いつも背中を押してくれる場所だ。高いリップを買っても、この一本を無駄にしないために色んな人と会いたい、話したいと思う。そして体調が安定している今、働きたいという気持ちも後押ししてくれた。

いい波がきている気がする。この波に乗り逃さないように。新しい鞄を手に携えて、明日からも頑張ろう。