令和タクドラ日記
大きな青アザが右顔面にある、「ユニークフェイス」な男が、京浜地区でタクシードライバーとして働いた2年間の記録。
タクシードライバーは乗せる客を選ぶことができないのだ。手が上がったら、誰でも乗せなければならない。
タクシーの後部座席に座って、ドライバーに道順を説明する。簡単な作業だと思われがちだが、全てのお客さんがスムーズに説明できるわけではない。いわゆる「あっち、こっち問題」は、タクシードライバーであれば誰もが経験したことのある接客トラブルだ。
タクシードライバーは差別されやすい職業かもしれない。勤務初日に僕はそう思った。
それでも、「この仕事は絶対になくならないだろう」と、実際に働いてみて確信した。
「俺だって、タクシードライバーになるなんて思ってなかったんだよ!!あんたもそうだろう」
行き場のない苛立ちを僕にぶつけるようにして、彼は言った。
思わぬ業界の「洗礼」を受けたのは、タクシードライバーとしての勤務初日の朝だった――
タクシードライバーについてどう思う?と聞いたとき、20代後半の女性はこう答えた。
「道で昼寝をしている人」
静岡県から川崎市に引っ越して間もない頃だったと思う。早起きして、散歩をしていた。国道15号線を川崎から、鶴見に向かって歩いていると、バス停がある歩道に衣服の塊が落ちていた。何だろう、衣料ゴミなのか、と思って近づくと、人間が横たわって熟睡していた。
「オシッコしたい!!」「このタクシー、止めて!!」
深夜時間帯になるとタクシードライバーの仕事は一変する。
タクシードライバーとしてデビューしたとき、僕は不安でいっぱいだった。
「川崎がゴーストタウンになっている」「鶴見もひどい。出張する会社員がいなくなって、ビジネスホテルは空室だらけだ」
広大な敷地の一角にあるコンクリートで固められた路面に、トヨタ・コンフォートを停めた。一緒に来た先輩のタクドラたちが、さっそく煙草に火を付けた。うまそうに煙を吸い込んでいる。「ちょっと1本いいですか」ともらい煙草。一服つける。
風俗街の入り口にある、スシローの前で男性が手を上げた。トヨタのコンフォートをゆっくり減速させ、ウィンカーを出して、左側に車体を寄せる。