略歴
1996 年、千葉県生まれ。東京大学文学部人文学科哲学専修課程卒。東京大学大学院人文社会系研 究科 欧米系文化研究専攻 ロマンス語圏言語文化 フランス語フランス文学研究室 修士課程 2 年。 専門はジャン = ジャック・ルソーおよび 18 世紀フランス思想。厚生労働省指定難病の先天性疾患 脊髄性筋萎縮症により 24 時間の介護保障。電動車いす歴 20 年超。NHK・E テレ「ハートネットTV・ B面談義」に出演。その他メディア掲載多数
わたしと、わたしをかたちづくる言葉たち
子どものときから、空とか木漏れ日とか揺れながら変わらない美しさを備えた世界に強く心惹かれる気質でした。その興味は、生と死についての関心から生まれてくるものです。ということは障害という、生まれながら肉体に刻まれた教えに端を発するものかもしれません。三国志の英雄について新たに知れば、必ず「その人なんで死んだの?」と聞く4歳児…。
起源に響き続ける言葉は、「未来は変えられなくたって、自分たちの明日ぐらい変えようぜ!」(1)という憧れのヒーロー・タイムレッドの言葉。「文句を言う自由はあるでしょう。だが絶望する自由はない。まだ何もしていないからです。絶望とは何か。力の限り走り続けて、もう精も根も尽きた。それでも壁は高くてビクともしない。その時初めて絶望する資格が得られる。私たちにはまだ壁にぶつかって砕けるだけの力は残っています!」(2)と大王世宗は教えてくれたけれど、どうやら絶望は希望より手の届かないものにされているらしく、ちょっと不満だった幼年期。「奇跡の扉を開ける鍵は誰の手にも握られている。ただ、それに気づく人はほんの僅かしかいない。運命を変えるほどの大きな奇跡はそうそう訪れない。変えたいと思う小さな一歩を積み重ねる事でいつの日か奇跡の扉は開く」(3)と、自由は、恋心は、「扉」を通して歴史や運命の渦の中に弱々しくも確かに存在していると知った少年期。「受け継がれる意志、時代のうねり、人の夢。それらは止める事が出来ないものだ。人々が自由の答えを求める限り、それらは決して留まる事は無い!」(4)から、もっと自らを鍛え上げなければならないと直観した思春期。考えてみたら、いまでも相変わらずヒーローの背中を追いかけているみたい。
こういう原風景のもとに、いまはジャン=ジャック・ルソーの思想を研究しています。
幸福に、賢明に生きようと思えば、君の心を、滅びることのない美しいものだけに結びつけるがよい。君の境涯が君の欲望を制限するように、君の義務が、君の好みに先行するようにもってゆくのだ。必然の掟を道徳的なものにまで及ぼすがよい。君から取りあげられるようなものを失うことを学ぶがよい。美徳がそれを命ずるときにすべてを棄てること、偶然の出来事に超然としていること、そういうことから心をひき離して、心を引き裂かれないようにすること、けっしてみじめにならないように、逆境にあっても勇気を失わないでいること、けっして罪におちないように義務を固く守ること、そういうことを学ぶがよい。そうすれば、君は、運命がどうあろうとも幸福になり、情念を感じていても賢明になれるだろう。
ジャン=ジャック・ルソー『エミール、または教育について』(フランス語: Émile, ou De l'éducation)より
いかなる境涯でも、身体でも、生まれた場所でも、生きようとする意志や勇気を失わない限り、その途は自由を通して、歴史の中に流れていく。そう思わせてくれるテクストです。
(1)東映特撮『未来戦隊タイムレンジャー』より
(2)韓国時代劇『大王世宗』より
(3)フジテレビ『プロポーズ大作戦』より
(4)尾田栄一郎『ONE PIECE』より
代表作
「困難」よりも、はるかに広いイマジネーションを。歴史創造的存在としての障害者 ( 閒-あわい-, 2022/01/14)
紹介文
文字通り堂々たる「動かなさ」で、寒い日も暑い日も、風邪でも二日酔いでも毎日コンスタントにテキストを読み、そして書き続ける彼の周りを、僕はちょこまかドタバタと無駄にせわしなく(しばしばソファにぶつかりながら)動いています。週に1度、ゆにくんの家で生活を共にし、介助をしながら色んなことを語り、お互いを通して色んな作品や人と出会い、一緒に泣いたり笑ったりする、その日々のまるごとが、僕に生きる勇気を与えてくれています。
(鈴木悠平)
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対談企画「介助とヒーロー」
TBSテレビの日曜劇場『ラストマンー全盲の捜査官ー』を観て、僕の介助者の一人であり、この閒(あわい)をホストする友人の鈴木悠平(すずき ゆうへい)さんと対談したものです。
Web連載を書籍化し、Amazonで販売しています。
映像出演
Shin’s story: Using technology to break down the barriers of disability in Japan (Microsoft 2018)
ある学生の視点 車いすから見上げた世界 ( 東京大学情報学環メディアスタジオ実習制作・2017)
執筆記事
「疎」を恐れず生きる 繋がりすぎない介助を求めて (中日新聞・2021)
相模原事件裁判死刑判決を障害当事者はどう見たか?「守られる」障害者像からの脱出を目指して ( ハーバー・ビジネスオンライン・2020)
DO-IT Japan レポート (2013) / p22 に掲載
本当は何が欲望されているのか?「障害者手帳と割引」を再考する ( 閒-あわい- , 2023/03/23)
ギャグマンガを讃えて - 「書く」とき・ところ・道具とわたし #3 ( 閒-あわい- , 2022/04/13)
「笑うこと」について ( 閒-あわい- , 2022/01/30)
私が眠ったことのある場所 ( 閒-あわい- , 2021/12/16)
「障害」は動かない – 天畠大輔『しゃべれない生き方とは何か』の批判的検討(障害学会第19回大会自由報告, 鈴木悠平との共著)
テレビ番組・イベント出演
大学で「文学」を学ぶってどういうこと?
池澤春菜(日本 SF 作家クラブ会長、声優 ) × 塩塚秀一郎(東京大学仏文研究室、教授)× 愼允翼(東京大学仏文研究室、修士 1 年)
哲学は社会の分断をどう問うか at B&B / 景山洋平 × 愼允翼 × 鈴木泉 『「問い」から始まる哲学入門』(光文社)刊行記念イベント登壇
書籍掲載
雑誌 “NEUTRAL COLORS” ( 3 号・2022) 「16通の往復書簡」/ 愼允翼・西村亮哉
学びに凸凹のある子が輝くデジタル時代の教育支援ガイド - 子ども・保護者・教師からの 100 の提言 ( 朝日新聞・2021)
TBSテレビの日曜劇場『ラストマンー全盲の捜査官ー』を観て、「介助とヒーロー」というテーマのもと、脊髄性筋萎縮症(SMA)Ⅱ型による重度身体機能障害のある愼 允翼(しん ゆに)と、重度訪問介護制度による愼の介助者の一人鈴木 悠平(すずき ゆうへい)が対談する。
・記憶に残る、家族の「味」と「香り」
・「2人の兄」が弟にかけた言葉
・痛みも後悔も「あなたと共有する」ということ